虎屋文庫:和菓子だより
百味箱 江戸時代
菓子資料室 虎屋文庫では虎屋歴代の古文書や古器物に加え、菓子に関わるさまざまな資料を所蔵しています。このコーナーでは、その一部をご紹介していきます。 36.2×38.0×42.0(外箱40.4×52.5×47.0)(cm) *画像をご使用になりたい方は虎屋文庫までご連絡くださいませ。 江戸時代、宮中では陰陽五行説(いんようごぎょうせつ※1)に基づいて吉兆を占う陰陽道(おんようどう、おんみょうどう)が重視され、有卦(うけ※2)という幸運な年回りに入った際などにはお祝いの行事がありました。宮中からは、虎屋に百味菓子(ひゃくみがし:100種類の菓子の意)のご注文があり、寛政12~慶応4年(1800~68)の虎屋の御用記録を見ると、百味菓子の中には「小倉野」や「井出の里」など、現在販売されている菓子の銘も確認できます。これらをお納めする折に使用したのが、百味箱(ひゃくみばこ)です。五段重ねの各段は菓子が20個入るよう枠で仕切られ、計100個詰められるようになっています。当時お納めしていた菓子の大きさは、現在販売されている生菓子の3倍ほど(約150g)でしたので、大ぶりで色とりどりの菓子が並んださまは、さぞかし壮観だったことでしょう。 ※1 陰陽五行説…古代中国に起源をもつ、陰陽説と五行説が結びついて一体化した説。※2 有卦…陰陽道の考えによる、吉運の続く時期のことで、7年間、万事が吉方へ向かうとされた。 百味菓子(再現)
百味箱 江戸時代
菓子資料室 虎屋文庫では虎屋歴代の古文書や古器物に加え、菓子に関わるさまざまな資料を所蔵しています。このコーナーでは、その一部をご紹介していきます。 36.2×38.0×42.0(外箱40.4×52.5×47.0)(cm) *画像をご使用になりたい方は虎屋文庫までご連絡くださいませ。 江戸時代、宮中では陰陽五行説(いんようごぎょうせつ※1)に基づいて吉兆を占う陰陽道(おんようどう、おんみょうどう)が重視され、有卦(うけ※2)という幸運な年回りに入った際などにはお祝いの行事がありました。宮中からは、虎屋に百味菓子(ひゃくみがし:100種類の菓子の意)のご注文があり、寛政12~慶応4年(1800~68)の虎屋の御用記録を見ると、百味菓子の中には「小倉野」や「井出の里」など、現在販売されている菓子の銘も確認できます。これらをお納めする折に使用したのが、百味箱(ひゃくみばこ)です。五段重ねの各段は菓子が20個入るよう枠で仕切られ、計100個詰められるようになっています。当時お納めしていた菓子の大きさは、現在販売されている生菓子の3倍ほど(約150g)でしたので、大ぶりで色とりどりの菓子が並んださまは、さぞかし壮観だったことでしょう。 ※1 陰陽五行説…古代中国に起源をもつ、陰陽説と五行説が結びついて一体化した説。※2 有卦…陰陽道の考えによる、吉運の続く時期のことで、7年間、万事が吉方へ向かうとされた。 百味菓子(再現)
おいしい計算
「チバサンノウチカラ、ヤウカンヲ一箱イタダキマシタ。キノフ、オカアサンガ、ソノ1/4ダケ切ツテオ出シニナリマシタ。ミンナデタベマシタ。後ニマダドレダケ残ツテヰルデセウ」 これは、昭和12年(1937)作成の尋常小学校三年生用の国定教科書に掲載された算数の問題です。戦前に使用されたこの教科書は、挿絵が豊富で、問題文も買い物や郵便料金といった日常生活にまつわる話題が多いなど工夫が見られるとして、現在も高く評価されています。この問題には木箱入りの羊羹の写真も添えられており、切って食べる棹状の羊羹が贈り物の定番だったことがわかります。子どもたちにとって、少しずつ切って家族みんなで食べる憧れのお菓子だったのでしょう。 なお、教師向けの指導書には、生徒の関心を高めるため、「羊羹ハオイシイ菓子ノ一ツデ、細長イ直方体ヲシテヰルコト。値段ヲ考察サセ、衛生上ノ注意ヲ与ヘルコト」と記されており、楽しい授業風景が目に浮かびます。 注釈参考第四期国定算数教科書『尋常 小学算術(児童用)第三学年 上』(海後宗臣・編纂『日本教科書大系 近代編 第13巻 算数(4) 』講談社 1962年)岩下吉衛『小学算術教授書 尋3 上』明治図書 1937年 ※国立国会図書館デジタルコレクションにて公開中。
おいしい計算
「チバサンノウチカラ、ヤウカンヲ一箱イタダキマシタ。キノフ、オカアサンガ、ソノ1/4ダケ切ツテオ出シニナリマシタ。ミンナデタベマシタ。後ニマダドレダケ残ツテヰルデセウ」 これは、昭和12年(1937)作成の尋常小学校三年生用の国定教科書に掲載された算数の問題です。戦前に使用されたこの教科書は、挿絵が豊富で、問題文も買い物や郵便料金といった日常生活にまつわる話題が多いなど工夫が見られるとして、現在も高く評価されています。この問題には木箱入りの羊羹の写真も添えられており、切って食べる棹状の羊羹が贈り物の定番だったことがわかります。子どもたちにとって、少しずつ切って家族みんなで食べる憧れのお菓子だったのでしょう。 なお、教師向けの指導書には、生徒の関心を高めるため、「羊羹ハオイシイ菓子ノ一ツデ、細長イ直方体ヲシテヰルコト。値段ヲ考察サセ、衛生上ノ注意ヲ与ヘルコト」と記されており、楽しい授業風景が目に浮かびます。 注釈参考第四期国定算数教科書『尋常 小学算術(児童用)第三学年 上』(海後宗臣・編纂『日本教科書大系 近代編 第13巻 算数(4) 』講談社 1962年)岩下吉衛『小学算術教授書 尋3 上』明治図書 1937年 ※国立国会図書館デジタルコレクションにて公開中。
桜餅の俳句
江戸時代、隅田川名物として売り出された桜餅は竹籠入だった。 *画像をご使用になりたい方は虎屋文庫までご連絡くださいませ。 桜もち籠を流せば鷗かな船つけて買ひにあがるや桜餅葉のぬれてゐるいとしさや桜餅 これらは、劇作家であり俳人の久保田万太郎(くぼたまんたろう・1889~1963)の句です。彼は美食家として知られ、食べ物に関する句が多く、なかでも桜餅を詠んだものは30近くあります。浅草生まれの万太郎にとって隅田川は馴染み深い場所であり、その川岸で生まれた桜餅は、江戸情緒を感じさせる特別な存在だったのでしょう。桜餅と一口にいっても、関西風の道明寺生地、関東風の小麦粉などで作る焼き皮生地の二種類がありますが、万太郎は関東風のものを思い浮かべて句を詠んだと思われます。 ※出典の古い順に列記。詞書は省略した。 かゝり人が桜餅買うて戻りけり恋ざめのこれを焼きけり桜もち桜餅千住の花の菓子屋かな桜餅言問は遠き身寄かなふりしきる雨はかなむや桜もち三つまでうけたる猪口や桜もち桜餅と入学試験とかな待乳山夕越え来りさくらもちまづのどをしめす茶であり桜餅とりわくるときの香もこそ桜餅さくらもち供へたる手を合せけり桜餅二月の冷エにかなひけり川波のあくなき曇リ桜餅桜餅自然なほりし身もちかな烈風の中さくらもち提げしかな葉にめづるうすくれないや桜もち桜餅やゝ風だてる夜なりけり桜餅松葉屋とゝ”け来りけりそのころをかたりて飽きず桜もちそのころをかたりて飽かず桜もちそのころをかたりて倦まず桜餅桜餅うき世にみれんあればかなくもり日のひかり指に落つ桜餅いさくさはどこの家にも桜餅にしき絵の古き匂やさくらもち 注釈 参考文献 「季題別全俳句集」(『久保田万太郎全集』第14巻 中央公論社 1967年)
桜餅の俳句
江戸時代、隅田川名物として売り出された桜餅は竹籠入だった。 *画像をご使用になりたい方は虎屋文庫までご連絡くださいませ。 桜もち籠を流せば鷗かな船つけて買ひにあがるや桜餅葉のぬれてゐるいとしさや桜餅 これらは、劇作家であり俳人の久保田万太郎(くぼたまんたろう・1889~1963)の句です。彼は美食家として知られ、食べ物に関する句が多く、なかでも桜餅を詠んだものは30近くあります。浅草生まれの万太郎にとって隅田川は馴染み深い場所であり、その川岸で生まれた桜餅は、江戸情緒を感じさせる特別な存在だったのでしょう。桜餅と一口にいっても、関西風の道明寺生地、関東風の小麦粉などで作る焼き皮生地の二種類がありますが、万太郎は関東風のものを思い浮かべて句を詠んだと思われます。 ※出典の古い順に列記。詞書は省略した。 かゝり人が桜餅買うて戻りけり恋ざめのこれを焼きけり桜もち桜餅千住の花の菓子屋かな桜餅言問は遠き身寄かなふりしきる雨はかなむや桜もち三つまでうけたる猪口や桜もち桜餅と入学試験とかな待乳山夕越え来りさくらもちまづのどをしめす茶であり桜餅とりわくるときの香もこそ桜餅さくらもち供へたる手を合せけり桜餅二月の冷エにかなひけり川波のあくなき曇リ桜餅桜餅自然なほりし身もちかな烈風の中さくらもち提げしかな葉にめづるうすくれないや桜もち桜餅やゝ風だてる夜なりけり桜餅松葉屋とゝ”け来りけりそのころをかたりて飽きず桜もちそのころをかたりて飽かず桜もちそのころをかたりて倦まず桜餅桜餅うき世にみれんあればかなくもり日のひかり指に落つ桜餅いさくさはどこの家にも桜餅にしき絵の古き匂やさくらもち 注釈 参考文献 「季題別全俳句集」(『久保田万太郎全集』第14巻 中央公論社 1967年)
『和菓子を愛した人たち』が印刷博物館で展示されています
「WORLD BOOK DESIGN(世界のブックデザイン) 2017-2018」 会 期:開催中~平成31年3月31日(日) 時 間:10:00~18:00 会 場:印刷博物館 P&Pギャラリー(東京都文京区) 入場料:無料(印刷博物館本展示場にご入場の際は入場料が必要) 2018年3月に開催された「世界で最も美しい本コンクール」の入選図書11点に、日本ほか6カ国のコンクール入選図書を加えたおよそ200点を展示。 昨年、第52回造本装幀コンクールにて「日本図書館協会賞」を受賞した『和菓子を愛した人たち』も紹介されています。 会場では、受賞作を実際に手に取ることができ、世界最高峰のブックデザインと造本技術が楽しめます。 お近くにお出かけの折はぜひご覧ください。 詳しくはこちらをご覧ください。 お問い合わせは印刷博物館(03-5840-2300)までお願いいたします。
『和菓子を愛した人たち』が印刷博物館で展示されています
「WORLD BOOK DESIGN(世界のブックデザイン) 2017-2018」 会 期:開催中~平成31年3月31日(日) 時 間:10:00~18:00 会 場:印刷博物館 P&Pギャラリー(東京都文京区) 入場料:無料(印刷博物館本展示場にご入場の際は入場料が必要) 2018年3月に開催された「世界で最も美しい本コンクール」の入選図書11点に、日本ほか6カ国のコンクール入選図書を加えたおよそ200点を展示。 昨年、第52回造本装幀コンクールにて「日本図書館協会賞」を受賞した『和菓子を愛した人たち』も紹介されています。 会場では、受賞作を実際に手に取ることができ、世界最高峰のブックデザインと造本技術が楽しめます。 お近くにお出かけの折はぜひご覧ください。 詳しくはこちらをご覧ください。 お問い合わせは印刷博物館(03-5840-2300)までお願いいたします。
見本帳でお花見 菓銘を考える編
装飾を削り落としたシンプルな意匠からイメージを膨らませるのも、和菓子ならではの楽しみのひとつ。ここにあげたものは、どれも虎屋の桜の菓子なのですが、皆様ならどんな菓銘をつけますか? 1 2 3 4 虎屋の菓銘は、下へスクロールしてご覧ください。 ↓ 1、遠山桜(とおやまざくら)紅色を使わずに春を表した、上品で洗練された意匠。遠くの山並みに、桜が日の光を受けて輝いているさまが目に浮かぶでしょうか。 2、緋桜(ひざくら)紅と緑のそぼろで染め分けにしたきんとんは、紅色で八重咲きといわれる優美な「緋桜」を表現したものと思われます。 3、春の錦(はるのにしき) 麗らかな日和に爛漫の桜、柔らかに芽吹く草木。端正な桜形を三色に染め分けて、錦を織り成すような春の彩を表しました。 4、雲珠桜(うずざくら)「雲珠桜」は京都市北部にある鞍馬山の桜を意味する言葉で、千年前から使われています。小豆の粒が花びらを思わせ、詩情豊かです。
見本帳でお花見 菓銘を考える編
装飾を削り落としたシンプルな意匠からイメージを膨らませるのも、和菓子ならではの楽しみのひとつ。ここにあげたものは、どれも虎屋の桜の菓子なのですが、皆様ならどんな菓銘をつけますか? 1 2 3 4 虎屋の菓銘は、下へスクロールしてご覧ください。 ↓ 1、遠山桜(とおやまざくら)紅色を使わずに春を表した、上品で洗練された意匠。遠くの山並みに、桜が日の光を受けて輝いているさまが目に浮かぶでしょうか。 2、緋桜(ひざくら)紅と緑のそぼろで染め分けにしたきんとんは、紅色で八重咲きといわれる優美な「緋桜」を表現したものと思われます。 3、春の錦(はるのにしき) 麗らかな日和に爛漫の桜、柔らかに芽吹く草木。端正な桜形を三色に染め分けて、錦を織り成すような春の彩を表しました。 4、雲珠桜(うずざくら)「雲珠桜」は京都市北部にある鞍馬山の桜を意味する言葉で、千年前から使われています。小豆の粒が花びらを思わせ、詩情豊かです。
見本帳でお花見 桜花麗し編
梅や菊と並んで、和菓子の意匠として好まれる桜。大正7年(1918)に作られた虎屋の菓子見本帳から、桜に関わるものをご紹介。約100年前に描かれた菓子で、お花見をお楽しみください。 1、都の錦(みやこのにしき) 2、宵月(よいづき) 3、雪月花(せつげっか) 4、新伊勢桜(しんいせざくら) 1、「見わたせば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける」という『古今和歌集』の歌にちなんだきんとんです。 2、「春宵一刻価千金(しゅんしょういっこくあたいせんきん)」。朧月に照らされた桜花の美しさを愛でるひとときは、千金にもかえがたいものですね。 3、「雪月花」は、四季折々の自然美を表す言葉です。菓子は雪を象徴する地色の白に三日月と桜を添えた、可憐な意匠となっています。 4、伊勢桜は八重桜の一種で、桜の終わりに近い時期に咲くため「尾張(終わり)に近い伊勢の国」という洒落で名づけられたともいわれます。
見本帳でお花見 桜花麗し編
梅や菊と並んで、和菓子の意匠として好まれる桜。大正7年(1918)に作られた虎屋の菓子見本帳から、桜に関わるものをご紹介。約100年前に描かれた菓子で、お花見をお楽しみください。 1、都の錦(みやこのにしき) 2、宵月(よいづき) 3、雪月花(せつげっか) 4、新伊勢桜(しんいせざくら) 1、「見わたせば柳桜をこきまぜて都ぞ春の錦なりける」という『古今和歌集』の歌にちなんだきんとんです。 2、「春宵一刻価千金(しゅんしょういっこくあたいせんきん)」。朧月に照らされた桜花の美しさを愛でるひとときは、千金にもかえがたいものですね。 3、「雪月花」は、四季折々の自然美を表す言葉です。菓子は雪を象徴する地色の白に三日月と桜を添えた、可憐な意匠となっています。 4、伊勢桜は八重桜の一種で、桜の終わりに近い時期に咲くため「尾張(終わり)に近い伊勢の国」という洒落で名づけられたともいわれます。